
平成27年8月29日に碇屋 公章氏(碇屋漆器店)を講師に迎え、城の漆のメンテナンスの話を伺いました。 碇屋さんは下見板、月見櫓の回縁の漆のメンテナンスを毎年行っておられる漆の匠です。 その講演会の内容ですが、私自身あまりよくわかっていない部分もあるので箇条書きにしてみます。 うろ覚えのところもある ので間違っているところは指摘お願いします。
漆と松本城の漆
性質
・漆は乾くのではなく一定の環境のもとで固まる。 →60%程度の湿度が必要。 通常は「室」に入れて温度、湿度を管理し固める。 ・上記の理由で月見櫓をシートで囲い簡易的な「室」にする。 シートを透明なものにしたらどうかという話がありましたが、完璧なUVカットが出来る素材で ないと使用不可 ・漆は火に強い バーナーで40分程度炙っても火がつかない →よって高価な漆を下見板に使用?(管理人の考察) ・漆は紫外線に弱い よって1年一回のメンテナンス(塗り直し)が必要
メンテナンスの方法
◆ 時期
湿度60%確保できる時期は5月〜10月まで
5, 6月は天気が読みにくいため、施工するタイミングが困難
夏は瓦が熱くその上を歩けない(作業が出来ない)
9月は秋雨前線に沿って定期的に低気圧が移動してくるので、天気がある程度読める よって毎年9月に施工する
◆ 下見板
清掃(埃、すす、鳥の糞など)
紫外線で傷んだ漆を水で洗い落とす
黒漆で塗り直す
◆ 月見櫓回縁
いたんだ漆、下地を除去
下地の痛みがひどい部分は昭和の大修理の際、確保した木材(創建材)を使って埋める
漆を塗る 朱色は岡山県高梁市産のベンガラを混ぜて使う 漆の特性で塗った直後はくすんだ色だが2〜3ヶ月で発色する
簡易「室」の中で養生
・昨年この作業のあと月見櫓の回縁を見たんですが、平らになっておらず、「何でだ?」と思ったことを思い出しまし た。 そのことも今回のお話しの中にありました。 一度に平らに塗ってしまうとどんどん厚くなってしまうため、文化庁と打合せの上、何年?何十年?もかけ、少し ずつ平らに直していくのだそうです。 (理屈は理解できませんでした。)
宮坂会員の解説
月見櫓 回縁 今までは、漆が剥がれて修理が必要な箇所を、周りの漆の厚さに直してから塗り重ねてきたため、年々全体 の漆が厚くなっていきました。 修繕方法を見直し、土台となる木材に漆を(一度)塗った本来の状態に戻していく方法に転換。 現在の厚い漆を無理やり剥がすと、老朽化した土台の木材を傷めてしまうため、自然に修理が必要な状態に なっていくのを待って、順次厚くなった漆を剥がし、高さを揃えずに漆を塗っているため、凹凸が残ってしまい ます。 厚くなってしまった箇所すべてが自然に剥がれ、平らになるまでには何十年もかかります。 気が遠くなるような修繕をなさっていますね。


コーヒーブレイク
ところでおもしろいお話しが聞けました。 ガイドに使えるかも 下の写真のように軒瓦の一カ所だけが左巴(左右の呼び方は逆の説もある)になっているところがあります。 場所は渡櫓二階・内堀側の武者窓から見える天守二階の軒。 根拠のあるお話しではありませんが...という前置きで、碇屋さんは当時の瓦職人の頭領が自分の名を仕事 に残すためにわざとやったのではないか?と想像しているそうです。 (似た話として大工の棟梁が自分の名入 りの墨壺をわざと天井裏に残してきたり..)裏に何か書いてあるかもしれませんね。 何十年か先の解体修理の 時に確認できるだろうとお話ししていました。

mackinawさんからの情報
9月12日放送の「世界ふしぎ発見!」はノイシュバンシュタイン城と姫路城の特集でした。 そこで紹介されていたのですが、今回の姫路城の修理で築城主池田家の揚羽蝶の家紋が逆さになっている 瓦が1枚見つかったとのこと。 学芸員さんの推測では、不完全な部材を入れることで建物がまだ完成していないというまじないではないかと のこと。 完成してしまうと、後は朽ちていくだけなので... もしかしたら、当時は当たり前に行われていたことなのかもしれません。 今後史料が見つかり、解明されるとい いですね。