「なぜ日本の甲冑は全身を隈なく覆わなかったのか?」との質問を受けたことがあります。私も以前から何故大切な首周りの防御が欠けているのか?とかなり疑問に思っていたのですが、胴の部分の小札が大型化し、横一列の各小札を一枚板に置き換えた板札(いたざね)構造に発展したことにより甲冑の柔軟性が失われ、動きやすさを優先した結果首回りや脇は弱点となってしまったようです。
さて、展示会で興味を引いたのは「亀甲文様」を一部に使っている甲冑が3領あったことです。亀の甲羅に由来する亀甲紋は、厄を払い、身を守る吉祥模様として平安、鎌倉時代に流行し、服飾、調度品、武具などにも幅広く使われました。長寿の象徴「鶴亀」に結びつくことは言うまでもありませんが、崩れない連続模様から永遠の繁栄を願う文様として縁起の良いデザインでもあったようです。特に戦勝、必勝の神とされる毘沙門天が着用している鎧の柄由来の毘沙門亀甲という文様が好まれたのだとか。武士も験を担いだのですね。
余談ですが、11月22日放送のTVドラマ「麒麟がくる」で織田信長が派手な亀甲模様の羽織を着ていたのには少々ビックリです。
使用されている糸の色にも興味がありました。赤い甲冑は別として(1領だけ赤い甲冑でした)、殆どが藍染の糸を使用しているように見えました。コロナ禍で情報があふれる中、偶然藍染に抗菌作用があることを知りました。藍染した布は消臭性や傷の可能を防ぐ抗菌効果、止血効果があり、また耐火性が高まるとされ、武士が戦闘時につける甲冑の下着にも用いられていたそうです。現在でも剣道着、袴など武道の稽古着などに藍染が使用されているのはそのような理由からだそうです。
天守2階階段下のコーナーケースに高価な火縄銃の展示と共に藍染の火縄が展示されていますが、タデアイの葉は染色が難しいとされていた木綿にもよく染まる性質があったため可能となったようです。江戸の庶民も虫食いを受けにくく保存性も高い藍染の着物をよく着ていたとか。また平氏が一門の繁栄を祈り、長寛2年(1164年)厳島神社に奉納した「平家納経」(国宝経典)の中には、「紺紙」を用いたものが少なくないそうです。「紺紙」は藍で紺色に染色した和紙で、これらの写経本が現存しているのは、藍の持つ防虫効果が機能していると考えられているそうです。
最後にarmor由来の単語を二つ。
・Armed vehicle はご存知「装甲車」。装甲は「鎧を着た」という意味ですから「鎧を着た車」ということになります。日本ではめっきり目にすることの少なくなった装甲車ですが、今でも紛争地帯の戦闘場面で目にすることがあるのは悲しいことですね。
・鎧を着ている動物もいます。
アルマジロ (armadillo)という小さな動物ご存知ですか? この名もarmor由来。
スペイン語で「鎧を付けた小さな奴」という意味だそうで、鎧のような硬い皮膚をまとった格好をしているからこの名前が付いたとか。このアルマジロ、なんと多くの差別を生んだハンセン病の完治にも役立っていたとは驚きです。半世紀ほど前、アルマジロがこの病気にかかることが発見され、アルマジロの体内で増殖した「らい菌」を利用することで一気に研究が進んだのだそうです。鎧を着けた小さなアルマジロ君は名前に負けずなかなかの強者です!
防弾仕様のアルマジロ 丸めると直径13cmに
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